CMディレクター 仲野哲郎の「シズル」って何?125
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アメリカの人気料理番組の科学監修者のガイ・クロスビー博士。
火を使い料理を初めた200 万年前から現代に至るまでの人類の歴史と科学の進展をたどりながら、
料理がなぜ人類の進化を決定づける要素になったのかを書いています。
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ではさっそく。メモしていきます。
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“ヒトのDNAに味覚は深く刻まれていて,生まれた直後もしくは少し後から味がわかるようになります。
ヒトにわかる味には,甘味塩味苦味酸味うま味の5種の基本的な味覚それに脂肪味があることがわかっています。
甘味苦味うま味脂肪味は,特定の味細胞の表面にあるタンパク質でできた受容体で感知し,塩味と酸味は,
味細胞の細胞膜のなかにあるイオンチャネルの容体で感知します。
口腔の大部分と舌の上側には,味を感じることができる特別な受容体細胞があります。
底薔に含まれている 味覚受容体細胞は,物理的な摩耗や,高温の食品との接触が繰り返されることにより、
9~15 日ことに常に入れ替わっています。
味蕾はその1/100 ほどの小ささである味細胞の集まりです。その味蕾が集まったものが、
舌や口内の大部分の表面に見えている凸 凹である乳頭です。
このように構成されている味覚器官は,人体のなかで完全に再生できる数少ない器官の一つでもあります。
甘味の味覚は,すぐにエネルギーになる糖質を感じるために欠かせません。
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ヒトの脳 が使うエネルギーの大部分は単糖であるブドウ糖でまかなわれ、 1日の所要量は約 120g に達します。
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苦味の味覚が発達したのは,有毒な植物を食べないようにするためです。
毒性のある物質のほとんどは強い苦味があります。
ヒトには苦味の受容体が約 25種類ありますが,甘味の受容体は1種類しかありません。
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つまり,有毒な物質を避けることは、エネルギーのために必要な甘い食べ物を感知することに比べても重要性が 高いようです。
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ヒトの味覚は、甘い物質よりも苦い物質に対しておよそ1000 倍敏感であることがわかっています。
有毒な苦い物質はほんの少しでも避ける必要がありますが、エネルギーのために求められる甘い食べ物は
ずっと多くの量を消費します。
だから,それぞれの味覚は異なるレベルの敏感さに進化したのでしょう。”
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苦味を感じる力は甘みの1000倍!苦味は少しでもわかるんですね。
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“興味深いことに,人間は味覚に比 べて嗅覚の方がずっと敏感です。
におい分子の多< は,空気中に1兆分の1にも満たない レベルでも、ほとんどの人が嗅ぎ分けられます。
1兆分の1は本当にごく微量で、時間にた とえれば3万2000年のうちの1秒にすぎません。
(中略)
なぜ私たちはそんなに においに敏感なのでしょうか。
サバイバルに関していえば,答えは味の場合ほど明確ではありません。
植物性・動物性タンパク質が分解すると、揮発性の高いアミンの生成に より強いにおいが発生します。
古くなった魚のにおいが典型的です。
つまり, ヒトの嗅覚は、腐った食べ物を摂取するのを避けるために発達したのかもしれません。
しかし、より可能性が高いのは、言語が発達する以前に,においを通したコミュニケーションの手段として、
極微量でもフェロモンがかぎわけられるように嗅覚が発達したという説です。
ヒトの鼻には約400種類もの嗅覚受容体があります。
タンパク質でできた嗅覚受容体の生成に関わる一連の遺伝子は、ヒトの遺伝子で最大のグループを形成しています。
ヒトは1万をはるかに超える種類のにおいを感知することができるのです。
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そして,味 覚はDNAに組み込まれていますが,嗅覚は学習によって獲得されます。
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(中略)
好きな食べ物への欲望は、 脳内の三つの領域でつくられ、これらはセックス,麻薬,音楽への
欲望をつくり出す三つの領域とまったく同じです。
ですから,ヒトがエネルギーや栄養の必要を超えて食べ 物に強い欲望を持つのも不思議ではありません。
特定の風味に対する精神的イメージのよい例がほっとする食べもので、子どもの頃に好きになり、
大人になってからも無性に食べたくなるような食べ物です。
典型的なのはハンバーガー、 フライドポテト、チーズとマカロニのグラタン、ピザなどで、
子どもの頃に味を覚えたファストフードが食べたくなるのも同様です。
(中略)つまりは時が経つにつれて好きな食べ物 はさらに好きになります。
好きな食べ物への欲望は,味やにおいの感覚、脳内でつくら れる風味のイメージだけではなく、
数多くの感覚から生まれます。
食べ物を口に入れた ときに感じられる食感(たとえば粘っこい,もっちりしている,カリカリしているなど)、
かむときの音(ポテトチップを食べるときの音など)、温度、見るからにおいしそうな 色や形など。
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そして何よりも,その食べ物を食べた状況と結びついた記憶が、好きな食べ物を決定づけるのです。”
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状況。記憶。食感。音。温度。視覚。味覚。匂い。全てがそろった時、美味しいって感じるんでしょうね。
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“脳内で風味のイメージがつくられるという事実は、料理がヒトの脳の進化にどんな影響を与えたかという
疑問を投げかけます。
火で食物を料理することは,ホモエレクトス の脳の進化と大型化に貢献しましたが、その要因として、
食物から摂取できるエネルギーと栄養素が増すという事実だけではなく、
料理によって食物がおいしくなることも、同じくらい重要だったのではないでしょうか。
風味のイメージは、脳内で膨大な情報を複合的に処理した結果生み出されるものであり、
大きな役割を果たしたと考えられるのです。
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ほっとする食べものを食べると味覚・嗅覚の受容体が増加し、その結果、脳内でより多くの情報処理が
行われることがわかっています。
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甘味うま味苦味の受容体は、 かなり最近になってヒトの消化器系に発見されました。
ブドウ糖の吸収やインスリンの分泌など,幅広い身体的反応に役割を果たしています。
これらの「味」の受容体が脳 メッセージを伝えると、食欲に関するさまざまなホルモンのスイッチが
入ったり消されたりします。
このような消化器系の受容体からの神経反応を調節することで,脳は活動量を増やし、
発達が促された可能性が想像できます。
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さらに,初期の人類の食生活で肉の摂取量が増えたのは,焼いた肉がおいしかったからかもしれません。
ヒトが生肉よりも加熱した肉にずっと強いうま味を感じることは、興味深い事実です。
なぜこのことが重要かといえば、人体は糖新生によって、加熱した肉のタンパク質を消化して得られる
アミノ酸をもとに,脳が必要とするブドウ糖をつくることができるからです。
平均で, 160~200g のタンパク質を分解すると、 1 日の必要エネルギーである120g のブドウ 糖ができます。
健康なヒトの場合タンパク質を分解して得られるアミノ酸は、ブドウ糖の合成よりも、
人体を構築する重要な要素であるRNA、DNA、 神経伝達物質などの 合成に優先的に使われます。
生の食物に含まれるタンパク質と炭水化物は,加熱調理によってずっと消化しやすくなります。”
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料理によって脳が発達した。のかもしれません。これは面白いですね。
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“1967 年になると、グルタミン酸塩や別のアミノ酸であるアスパラギン酸をヌクレオチドと組み合 わせることで
グルタミン酸塩、 ヌクレオチドをそれぞれ単独で用いる湯合に比べて、
20倍もうま味が強まることが認められました。
これは相乗効果、 拡大効果と呼ばれる現象です。
この結果、トマトソー スとパルメザンチーズ、あるいは牛肉とマッシュ ルームといった組み合わせは、
それぞれの食品を別に食べた場合に比べてずっと強いうま味があるのです。
この発見のおかげで、料理人はグルタミン酸塩 とヌクレオチドを含む食材を組み合わせて用いることで
料理の味を高められるようになり,またうま味が第5の基本味としてより広く認められ始めました。
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味の素の池田菊苗の発見した5番目の味。うま味。大発見です。
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”
1万2000 年前,最後の氷河期が終わり、新石器時代が始まると、事態はすっかり激変します。
農業革命が始まり、移住生活をしていた人類は定住して集落を形成し始めます。
このことはどのように可能になったのでしょうか。エンマーコムギや二条オオムギなど、
氷河期の終わり以降に出現した野草の新しい変種の種が集められ、保管され、植えられました。
そして次の季節に収穫されたかもしれません。この変化が最初に起きたのは,肥沃な三日月と呼ばれる地帯
(ヨルダン,シリア,レバノン,イラク,イスラエル,それにイランの一部)でした。
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1年間食べていくに十分な食料が、たったの3週間で収穫できるようになったのです。
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”大量の食料を一度に収穫できるようになったことで、当時の初期の農民たちは、
場所を移動することができなくなりました。食料をすべて安全に保管するための動かせない建造物を
つくらなくてはならなかったからです。これにより恒久的集落がつくり出されました。
農業革命は,数千年かけて世界のほかの地域にも広がっていきました。”
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農業が始まったから戦争が起こるようになったと言う人もいます。よね。
人が安全に食べ物を得ることができるようになったのは確かです。
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”3750 年前にさかのぼるアッカド語の粘土板と呼ばれる一連の粘土板があり、
実存する世界最古の料理レシピです。
この粘土板は、ティグリス川とユーフラテス川にはさまれたメソポタミアのものです。
しシピを見ると、当時の食品が驚くほど豊富で多様だったことがわかります。
1枚の粘土板には、25 種の煮込み料理 。21 種の肉料理。4種の野菜料理のレシピが書かれていて、
驚くほど豊かで洗練されています。”
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3750年前からレシピを残していたんですね!驚きます。
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“農業の出現から5000-7000年後,世界人口は 300 万人から1億人へと爆発的に増えました。
比較的短いこの期間で、初期の人類の人口増加は、それに先立つ400万-500万年間の人口増加のおよそ
35倍にも達したのです。
恒久的な集落のおかげで生活が安全になり、出産と育児に費やせる時間が増えただけではありません。
動物を家畜化し、より多くの種類の穀物を栽培化することが可能になりました。
また,エネルギーが豊富に得られて栄養価の高い肉や乳製品が安定供給され、
新しい食品や調理方法の発明など、工夫のための時間も生まれました。
農業の発展は革新を生み、そこから人類史上初めて科学的原理が引き出され、
観察できる事実をも とに新しい知識を獲得していく道が開かれました。”
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農業はヤバいですね!
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“古代エジプト人が酵母を使って発酵させたパンを世界で初めて焼いたのは、 5000年前にさかのぼります。
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さらに,酵母使用の技術を応用して、アルコール飲料をつくりました。
そのプロセスの発見はほぼ同時期に実現しました。
エジプト人から学んだ方法をもとに、古代ギリシア人は小麦粉の製粉方法と、パンの生地づくりと
焼き方を大幅に改良しました。
酵母を入れたパン生地のふくらみを抑制するふすまを取り除くために、小 麦粉をふるいにかけて
白い小麦粉をつくりました。
また、パンコムギをひいて小麦粉にする方法を発展させ、セモリナ粉のパンもつくるようになりました。
古代ギリシアでは 70種類ものパンがつくられ、パンは当時最も消費量の多い食品だったといわれていま す。
パンを焼くために、前面から出し入れする形式の土のオーブンが初めてつくられたのも古代ギリシアで、
これは今日の薪で焼くピザ窯とほとんど違わないものです。
古代エジプト人も負けておらず、4500 年前~3800 年前にはこれを一歩進歩させて、
泥レンガでオーブンをつくりました。
エジプトの泥レンガのオーブンは,前面から出し入れするオーブンとは違ってドーム型ではなく、
天井が平らでした。平らな天井は進化して、 鍋や浅鍋を熱するための調理台となり、
この進歩によって「調理用レンジ」がつくられ、 続いて3000年前には火鉢が登場しました。
火鉢はレンガのオーブンよりも小さく、炭火を熱源とし、持ち運びができて、採暖にも調理にも使われました。
最も初期の火鉢は土でつくられましたが、やがて青銅器時代の初めにはより丈夫な青銅器でつくられる
ようになりました。”
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パンから、調理台まで、どんどん進化していったみたいですね。
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“料理の腕を競い合うテレビ番組で、審査員が料理の味を評価するのに使われる表現に注意を払ったことが
ありますか。
たとえば、「甘さと酸味のバランスが素晴らしい」とか、「苦味と塩味のコントラストを強調したら、
もっとおいしくなる」とかいわれますね。
何かお気づきの点はありませんか。
そう、こうしたコメントでは、
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料理の味ばかりが言及されていて、風味については触れられていません
(第1章で論じたように,味とにお いと風味はまったく別物です)。
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甘味酸味苦味塩味は,どれも私たちの口のなかで味わうもので、それらににおいはありません。
大規模な研究の結果,口の奥から鼻ヘ 吸い込まれるレトロネーザル(後鼻腔)を中心としたにおいが、
食品の風味の85%を左右します。
しかし、審査員のコメントはにおいや風味ではなく味についてであることがほとんどです。
人類は200万年にわたり食べ物を料理して味わってきたというのに、
においと風味についての語彙をほとんど発達させませんでした。
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それはおそらく、感知できる基本味が6種類しかないのに対して、かぎ分けられるにおいは1万種類もあり、
さらにその組み合わせで生まれるほとんど無限の風味を脳内でとらえているからではないでしょうか。
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そのすべてを言葉で表現することなど、どうやっても無理でしょう。”
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匂い、香りを表現するのは難しいですよね。
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“土地の味すなわちテロワールの大切さを,世界 に先駆けて認識したのはフランス人でした。
フランスでは昔から、食材が育つ土地と食材の質とを結びつけてとらえてきました。
そのため、フランスのワ インには、原料のブドウが栽培された地域の名前がつけられています。
アメリカではブドウ品種がワイ ンの名前になっているのと対照的です。
さらに、テ ロワールはワイン以外の食材にも当てはまることが広く認められるようになりました。
オリーブ、油チーズ、ハチミツの品質や風味の特徴は、それぞれ、オリーブの木の栽培、乳牛の飼育、
ミツバチの生息する土地に関連しているのです。
(中略)
地産地消の料理が大きなトレンドになっています。地元でとれた食材は新鮮なだけでなく味もよいというのが、
シェフの間での常識です。
そして,この考え方が科学的に裏づけられているかといえば、答えはイエスです。
栽培・飼育の条件や 環境が食品の風味や食感に与える影響を示す科学論文がこれまでに数多く発表されています。
なかで よく知られているのがタマネギ、ニンニク、リー クシャロット(ワケギ)、エシャロット,チャイブ
などネギ属の野菜でしょう。
ネギ属の野菜に独特のピ リッとくる辛さや風味は,細胞が損傷を受けたとき に放出される酵素のアリナーゼが、
含硫化合物の Sーアルケニルシステインスルホキシド(ACSO) と 接触したときだけつくり出されます。
ニンニクやタマネギが丸ことの状態で無臭なのは、そのためです。
ネギ属の野菜の風味と辛さの強さは、土壌の硫黄肥沃度、つまり土壌に含まれる硫黄の含有量によることが、
複数の研究結果で明らかになったのも当然かもしれません。 ”
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“異なる地域でつくられているサラミを数種用意し,それぞれのサラミにコロニーをつくつている
細菌酵母カビを分析したところ、驚くべき結果が出ました。
ウルフによると,サラミはコロニーをつくつている微生物が異なる場合明らかに違う風味になるので
す。
図1では異なる地域の酵母とカビがサラミの表面に増殖している様子が示されています。
まさに、微生物テロワールが進行中というわけです。”
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微生物のテロワールとても面白いです。
我が家も味噌を作っていますが、我が家の味噌は我が家の菌で発酵しているので立派なテロワールですね。
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素晴らしい本でした。火の扱いから始まり農業、そして菌、分子調理まで。
食の科学。まさにタイトル通りの本でした。