CMディレクター 仲野哲郎の「シズル」って何?128
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今日は、料理写真会の第一人者 佐伯義勝さんの写真集。
「佐伯義勝の料理写真の世界」からのメモです。
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佐伯さんは、1952年報道写真の道から、料理写真の世界に入り、
1964年には日本初のキッチンスタジオを設立しています。
多くのお弟子さんを輩出しており、まさに料理写真界のレジェンド。
料理映像界では、ザ・シズルのディレクター細井威良さん、カメラ田原さん、
照明設楽さんチームが居られますが、それよりも少し前の世代なので、
日本の料理写真の礎を築いた1人は、まさに佐伯さんなのだと思います。
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写真集の写真を見るいると、大判フィルムの迫力と1発撮影の気迫、
商品と背景の世界観。とても素晴らしい写真ばかりで驚きでした。
まったくお手本のない中で、料理写真という未知の世界を一人で前進させ、
模索しながら作品を制作していたことを想像しながら写真集を見ていると
とても感動しました。
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今日は、その写真集からメモしていきます。(写真集は佐伯義勝さんのHPから購入できました)
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“訪ねたのは当時銀座にあった懐石料理「辻留』。
父親(留次郎さん)から二代目を継承した嘉一さんは名料理人とうたわれ、
裏千家の御用人も勤めていた。
この日の撮影は鮎の塩焼きだった。板場にピリピリと緊張感が張りつめ、
辻留さんは鬼のような形相で怒鳴った。
「わしが持っていったらパッと撮れええか、もたもたするな!」
必死になって準備をしていると台所から「行くぞ!」と大声がする。
カメラのほうはまだ用意できていないのに、焼き上がった鮎を持って突進してきて、
「はよう撮れ!料理が生きているうちに撮れ!」。
さらに「うまい瞬間をカメラにちゃんと食わせろ!」と怒叫り、佐伯の背中を叩いた。
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佐伯はわけがわからず、たかが鮎の塩焼きでなぜこんなに大げさにするのか、
不思議でならなかった。実は焼き魚は焼き上がりからわずか数秒で、振り塩が脂に溶け、
見た目も食感も落ちていく。
瞬時に撮らなければ料理は死んでしまうのだ。”
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“佐伯はコレクションを通じて、料理の文化にこだわっていた。
「シーンを作る際に重要なのはセオリー。郷土料理には同地方の酒を合わせる、
食器に合わせて選んだ箸を作法に従って置く、
季節に合わせて器を選ぶ。こうした約束事は、和洋を問わず、料理を食べやすいように、
そしておいしく食べられるようにという心配りから生まれた―つの文化です。
昔は撮影する際も、そうした約束事がしっかり守っていました。
一枚の写真に写ってるいすべてのものに、きちんと意味があったのです」。”
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“佐伯が常に目指していたのは「おいしい瞬間をカメラに食べさせる」ことだ。
そのためにいちばんこだわったのが「一気呵成」である。
いい素材を、いい料理人が、一気にこしらえ上げて盛り付けたそのときを、エイヤッとばかり撮影する。
料理をきれいに見せるため生に近い状態で撮ったり、小細工をして誤魔化すのではない。
おいしいから美しいという次元の高い美しさが理解される時代になり、
佐伯の写真のリアリティーが威力を発揮した。
「あつあつの状態、おいしそうな色つや、料理の先生が一気呵成に盛り付けた勢い、
そういうものが料理をおいしそうに見せます。
撮るほうも一気呵成、料理を作って出すほうも一気呵成、持ってくる人も一気呵成。
全部が一気呵成でなければ、おいししそうな写真は撮れません」と言い、
佐伯は料理人が一気呵成に盛り付けた料理の勢いが失われないうちに撮ることにこだわった。
辻留さんとの撮影で得た極意でもある。”
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“料理のいちばんおいしい時間はそう長くは続かない。
その瞬間、全神経を張りつめて、この光だ、この色つやだという時を狙う。
これは日頃、タイミングの訓練を積んでいないとできない。
チャーハンを例にとれば、仕上がって皿にきれいに盛られている状態よりも、
皿に押さえつけオタマがはずれ、米粒がパラパラっと割れかけ瞬間のほうが、
「はい、できました!」という勢いが醸し出される。
自然のうちに瞬間的に料理を写しとめることがポイントだ。”
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「料理をカメラに食わせる」。この言葉だけでも佐伯さんの写真姿勢が伺えますね。
素晴らしい写真集でした。