CMディレクター 仲野哲郎の「シズル」って何?117
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今日は、宮城大学の教授 石川伸一さん著の
「料理と化学のおいしい出会い」からのメモです。
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石川伸一さんの著書はどれを読んでも面白い!!
ハズレなしです。食べ物をテーマにこれだけ面白い文章が書けることに
驚くばかりです。
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今日は、第2章「料理をおいしく感じる」の科学からのメモです。
私の興味のある部分なので、大変楽しく読みました。
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“「これまでで一番おいしかった料理は何?」
私が大学の新入生によく聞く質問です。
食にまつわる体験を聞くことは、その人の育ってきた環境や考え方などの
バックグラウンドを知るのに大変いいキラー・クエスチョンだと思っています。
学生の答えとして「受験の前の日にお母さんがつくってくれたゲン担ぎ料理」や
「旅行先で食べたカルチャーショックな料理」などを挙げてくれますが、
それを食べたときの状況や心情も一緒に話してくれることがあります。
料理は、栄養成分の補給だけでなく、食べる楽しみや喜びを与えてくれるものです。
とくにその人の記憶に刻まれた思い出の料理は、それを食べたときの情景や
感情までもセットで呼び起こしてくれます。
私たちが普段料理をいただく際、まず食べる前に、その色や形のビジュアルや、
漂う香りなどから目の前の料理を評価します。
実際に口に入れ、食べものを舌の上で転がしながら感覚を働かせ、
一瞬のうちに、これはおいしい、まずい、好き、嫌いなど を判断 します。
この科理のお いし さを決める要因はさまざまで、外観、におい、味、温度、食感などの
「食べもの側の要因」はもちろんですが、
空腹具合や健康状態の生理的な要因、メンタル面の心理的要因などの「食べる人側の要因」
も考えなければなりません。
つまり、「分子調理学」によっておいしい料理の秘密を探ったり、
「分子調理法」によってよりおいしい料理を開発することをどんどん極めていけば、
必然的に「食」だけではなく、「人」も分子レベルで調べることに行き着きます。”
(中略)
”おいしい料理、感動する料理、記憶に残る料理は、人の味覚、嗅覚、視覚、聴覚、触覚である
「五感」すなわち「脳」を大きく刺激します。
おいしい料理をつくろうとする際、食材であったり、調理法にこだわったりします。
しかし、おいしさは、料理の中そのものにあるのではなく、食べた人の頭の中においしい情報が流れ込んで初めて生まれるものです。
その料理に使う食材を吟味したり、レシピどおりに料理をつくることと同じくらい、
「食べる人がその料理をどう感じるか」について考えることは大事なことです。
‘大切な人においしい料理をつくりたいとき、料理の風味や見た目だけでなく、
食べる雰囲気、その人が培ってきた食習慣までも考慮することが、実は大切なことなのです。
相手の心情をおもんぱかることが、感動的なおいしさを生み出す原動力でしょう。”
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おいしいを突き詰めると、五感だけではなく、食べる人の状況も考えざるを得なくなるっていうのは面白いですね。
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“当たり前ですが、プリンを食べたとき、それがプリンとわかるのは過去にそれを食べた場合のみです。
食べもの味が、脳のどこで記憶されているかについては現在も十分わかっていません。
しかし、視覚情報を感じる脳の視覚野では、たとえば赤ちゃんの顔に反応する神経細胞、
すなわち「赤ちゃん神経細胞」群があることがわかっています。
同じように、味覚野でも「プリン神経細胞」や「ラーメン神経細胞」のような、
過去に経験した食べものに反応する神経細胞群が存在している可能性が考えられます。
プリンを食べると、口の中でプリンが物理的にバラバラにされますが、プリンの風味や食感という
「情報」もそれぞれバラバラにされます。
それらの分解された情報が延髄の孤束核、大脳皮質味覚野などへ伝わり、
「プリン特有の神経ネットワークの興奮パターン」として情報が統合され、
過去の情報と照らし合わせることによって最終的にプリンと識別していると考えられます。
もし、このプリンの神経刺激パターンを再現することができたら、
プリンを食べなくても、プリンの味を脳で感じることができるでしょう。つまり、脳を刺激するだけで、その料理を味わえる“ということです。
まだ、SFの世界の話ですが、記憶された思い出の料理、感動した料理を脳内で再生することも
いずれ可能になってくるかもしれません。”
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結局、脳で判断をしているのだから、脳に同じ神経刺激パターンを与えたら。。。ってことですよね。。。
おいしいって不思議ですね。
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”「変わったもの」が食べたくなるのはなぜか
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“「単調な食事を続けていたら、食欲がなくなった」という経験をした方は、多いので はないかと思います。
これを栄養学的観点から見ると、単調な食事を続けると 、 栄養が偏ってアンバランスになるのを
防ぐという理屈で理解できます。
実際、体が必要とする栄養素が欠乏すると、その栄養素を含むものが無性に食べたくなり、
食べてみるとおしく感じます。大量に汗をかいたとき、塩味が効いたものを欲する感覚です。
(中略)
近年、心理学・行動科学の分野で、ある仮説が提唱されました。「人は単純な食事には飽きを感じ、
料理により変わったものであったり、微妙なずれを求める」というものです。
つまり、普段とは違う食事を食べることによって、いつもの食事では感じないちょっと変わった
ワクワクやドキドキを感じたいという欲求が、人の心理、すなわち人の脳に生まれながら
備わっているのではないかという説です。”
”私たち人間はそもそもいろいろなものを食べる「雑食性動物」です。それに対し、
パンダはササの葉だけを食べ、コアラはユーカリの葉だけしか食べません。
動物の生き残り戦略を考えると、雑食性動物は、慣れ親しんだ食べものが入手困難な状況になったとしても、
それ以外の食べられるものへと嗜好をシフトすることによって飢餓を脱し、生存する確率を高めることができます。
いわば環境適応性に優れた生きものであるといえます。
すなわち雑食性動物は、食べたことのないものを食べることに躊躇する「食物新奇性怖」と
積極的に食べようとする「食物新奇性嗜好」という相矛盾する行動傾向を生まれながら持っているということです。”
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新しいものを食べたい欲求は、雑食動物の本能だったんですね〜!
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“基本味が五つである理由
甘味、苦味、酸味、塩味、うま味が、科学的に基本味である理由は、脳でそれらの味がしつかりと認知されるとともに、分子生物学の研究によってそれぞれの味覚受容体が発見されたという事実によります。
日本人が見つけたうま味が「umami」として国際的に認められたのも、
このうま味を感じる受容体を人が持っていることが科学的に明らか になったことが大きいです。
現在、口の中でカルシウムに反応する受容体や、油の構成成分である脂肪酸にる受容体が見つかり、
カルシウム味や脂肪味が六番目、七番の基本味になる可能性が考えられています。
これらが基本味になるかどうかは、神経回路や脳活動部位がほかの基本味とは異なることを示す必要などがあり、
証明するのは決して容易ではありません。”
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5味から7味になるかもしれないんですね。
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嗅覚を刺激する料理が記憶に残りやすいわけ
プルースト『失われた時を求めて』に、「紅茶に浸したマドレーヌを口にした
にしたとたん、遠い昔の子供の頃を思い出す」という有名な一節があります。
このような体験談は誰しも持っているのではないかと思います。
料理の香り、花のにおい、香水の香りなどから昔の楽しかった、また悲しかった思い出を鮮明に思い出すことは
「プルースト効果」と呼ばれています。食べものの味よりもこの香りやにおいが古い記憶を呼び起こし、
感情強く訴えるのは、「においを感じる脳のしくみが味覚とは異なる」ことがひとつの要因です。
(中略)
嗅覚情報は、味覚情報と異なり、嗅細胞から直接脳内に伝わり、その後もいくつもの
段階を経ることなく、脳の高次中枢に送られます。
「扁桃体」など、好き嫌いや記憶をかさどる部位の近くに投射されることから、においは情動や記憶に関与しやすい といわれています 。
また、嗅覚は、五感の中でも突出して感度が高く、鋭くて、記憶力もいい感覚であるといえます。
これは味覚や視覚などと違い、鼻の粘膜の受容体からのシグナルが脳にダイレクトに入るので、
ほかの感覚に比べてノイズ が入りにくいからでしょう。
この嗅覚の鋭さの理由には、野生動物が、口の中にものを入れる前に、
腐ったにおいで食べものの安全を判断し、身を守ることが背景にあるといえます。”
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まず、安全を確かめるのは匂いの記憶ですもんね。納得です。
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”世界に類を見ないテクスチャー好きな日本人
日本人の主食であるごはんは、その適度なかたさや弾力性、そして粘りなどがおいさを左右しています。
さらに、小魚や煎り大豆の歯ごたえやトロや霜降り和牛のとろける食感、せんべいや焼き海苔のパリッと感、
天ぷらの衣のサクサク感と具材のジュー感のコントラストなど、日本料理におけるテクスチャーの役割は、
想像以上に大きといえます。
(中略)
実際、日本語のテクスチャーを表す言葉、サクサク、つるつる、ぷるぷる、ぼそぼ
などは、外国語に比べてかなり多いことが調べられています。アメリカ人が使うテクスチャー用語が
合計七五語であったのに対し、日本人が使う用語はその五倍以上の四0六語もあったという有名な報告もあります。
日本料理のシンプルで非常繊細な水墨画のようなおいしさは、このテクスチャーが鍵を握っているといっても
過言ではありません。”
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今回も面白い話が盛りだくさんでした。