CMディレクター仲野哲郎の「シズル」って何?60

   

今日は、「つくる たべる よむ」本の雑誌社 からのメモです。

各界の名手が料理と読書のおいしい関係を教えてくれます。

   

 

その中から、孤独のグルメの原作者。久住昌之さんの文章からメモします。

   

   

”「孤独のグルメ」を食べ歩きものだと受け取る人がいるんだけど、それはちょっとちがいます。

僕は食べ歩きは好きじゃないし、実はグルメそのものには興味がないんですよ。

「孤独のグルメ」は知らない街でトイレに行きたくなるような話なんです。

井之頭五郎が「トイレがない!」って必死に探している。

「すごく腹が減った!」と同じように、トイレに行きたくなっちゃって、さあ、どうしようという話です。

お腹が空いてしまった、なんとかしないと。

その辺りの滑稽さを書いています。

食べるということはトイレと同じでみんなに起こること。

おいしそうなものに辿りついて、すごく気持ちよさそうに五郎が食べているのはつまり、すっきりトイレで用を足しているんです。

それが漫画を読んでいる人やドラマを観ている人に

「あぁ、よかったなあ」

「おいしそうだなあ、食べてみたいなあ」と伝染する。

一人で知らない街にいてトイレを借りたい!

そういうときってすごく孤独でしょう?誰かといてもどうしようもないこと。

食べないでいられる人はいないから、そこを書いているようなところがあります。”

    

    

”体験とくつついている味の記憶はもちろん僕にもあります。

子どもの頃にテレビで西部劇を見ていて、

ならず者がスプーンで食べているものがなんだかわからない。母親に尋ねたら

「うーん、豆を煮たようなものなんじゃないの?」。

子どもだったから連想するのは日本的なもので、

なんでウエスタンの人が煮豆なんか食べているんだろう?ってとても不思議でした。

チリコンカーンとかチリビーンズなんて知らないもの。

   

ポパイのほうれん草の缶詰も食べてみたかった。

   

みんなも、ぐりとぐらのホットケーキが食べたかったでしょう。

子供の時の味の記憶はとても美味しい。

そういうところが僕の原点にあるんです。”

   

   

”昔、三鷹に渋い古本屋台みたいなオヤジがやっている飲み屋があったんです。

音楽もかからず、しーんとしている小さなお店。

ある夜、お客さんは僕とあと1人ぐらいでした。

   

「李白をもらえますか」

と頼むと、オヤジがコップに注いでくれた。

「はい。……いい名前だろ?」。そのたったひとことで、いっそうおいしくなります。

   

道玄坂を入ったところにあったフレッシュマンベーカリーという古いパン屋さんは、パンもお菓子も自家製。

   

ここでリーフパイを買うと、手渡しながら「割らないようにね」と言ってくれるんです。

自分の作ったものをとても大事にしている、おいしいひとこと。

   

お店の人のことばがおいしさを後押ししてくれることがある。

おいしいというのは、食べ物そのものだけじゃなくて付随したものにもあるんですよね。

   

今のテレビや雑誌のグルメ特集はおいしいがすべてになっていてつまらないと僕は思います。

本当の「おいしい」というのは、それだけじゃないんですよ。

僕の好きなお店は、飲み屋でも食べ物屋でも、みんなが楽しそうなんです。お客さんはお店に来るのを楽しみにして来ている。

ラーメン屋でみんな無言でも、これを食べに来たんだなというのを満々と感じる、そういうお店が大好きです。

食べ物というよりは、お店そのものなんです。”

   

   

突き詰めて言うと、貧乏っていうのはおいしいんですよね。

山で食べるカップヌードルがおいしいように、それしかない追いつめられた状況だから。

今はものがあふれかえっているけれど、ものがないときのおいしさは燦然と輝き、どんなこちそうにも勝ります。

池波正太郎さんも最後は懐かしい味のことを書いていました。

それは世の中が貧しい時代の味。

どんな美食家の人でもあの懐かしい時代に結局は辿り着く、そのことがこの年になってわかりました。

もう絶対に食べることができない、だからこそ、今のものを懐かしい味のように感じさせていつまでもいつまでも輝く味です。

   

懐かしい味を再現するんじゃなくて、今のものを懐かしい味のように感じさせて描くというのが、大事じゃないかな。

   

僕ら作家やエンターテインメントを作る人は、根本的なところでそれをやらないとと思います。

僕はそのために、腹が減って死にそうという五郎を知らない町において、

そこから物語を始めているんです。”

   

   

美味しいのヒントが所々に散りばめられていました。

とても興味深い納得の文章でした。

久住昌之さん | 2020 | 未分類 | Comments (0)